販売情報提供活動ガイドラインとMSL|違反事例と「危ないメディカル部門」の見分け方【2026年版】

販売情報提供活動ガイドラインとMSL MA・MSLの仕事

MSLやMAに転職するとき、年収や仕事内容と同じくらい確かめてほしいのが、その組織のコンプライアンス感覚です。この記事では、販売情報提供活動ガイドラインと、日本製薬工業協会(製薬協)のMSLの活動に関する基本的考え方をもとに、MSLが守るべき線、実際に報告されている違反が疑われた事例、そして面接で危ない組織を見分ける方法をまとめます。

この記事を書いている私(のぶ)は、製薬会社でMR、MSL、メディカルアフェアーズ(MA)を経験してきました。後半に登場する「A社」は、説明のための架空の会社です。特定の会社の話ではありません。

販売情報提供活動ガイドラインとは

「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」は、厚生労働省が2018年9月25日に通知し、2019年4月から適用されているルールです。製薬企業が医療用医薬品について行う情報提供を適正にすることを目的とし、承認された範囲内の情報であること、有効性だけでなく副作用を含む安全性の情報も提供すること、などを原則としています。

MRだけでなく、製薬企業の担当者による情報提供全般に関わるルールです。

MSLの基本的考え方(製薬協、2019年4月)

MSLについては、製薬協が2019年4月1日に「メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方」を示しています。営業活動からの独立について、要点は次のとおりです。

  • MSLは、営業部門から独立を担保された組織に所属する
  • MSLの活動は、自社医薬品の販売促進を目的としない
  • 社外の専門家と交流する際、営業部門の人が同席するかどうかは、目的を明確にしたうえで決める
  • 得た情報の営業部門への共有は、MSLの活動の独立が保たれる範囲に止める
  • アドバイザリーボード会議は、目的を明確にしたうえで、営業部門から独立して運営する
  • MSLの評価指標は、売上目標など営業活動に関連する項目にしない

情報提供の範囲についても、MSLが使う資料は営業部門の資料と区別し事前に社内審査すること、未承認薬や適応外の情報の提供は社外の専門家からの求めに受動的に応じる場合に限ること、などが示されています。求めを喚起したり誘導したりしてはいけない、とも書かれています。

実際に報告されている、違反が疑われた事例

厚生労働省は、医療機関にモニターを依頼して、製薬企業の情報提供を調べる事業を行っています。令和6年度の報告では、次のような結果でした。

  • 延べ18件の医薬品について広告違反が疑われ、違反が疑われた項目は延べ23項目(令和5年度は18件・26項目)
  • 最も多かったのは「事実誤認の恐れのある表現を用いた」(21.7%)。次いで「エビデンスのない説明を行った」「他社の製品を誹謗・中傷する表現を用いた」(各17.4%)
  • 情報の入手経路は「製薬企業担当者(直接対面)」が61.1%、「オンライン・Webグループ面談(院内)」が22.2%

報告書には、医療者から求められていないのに学術担当者が未承認の効能効果について「今後使えるようになる予定」と話した事例、副次的評価項目の結果をもとに「唯一の」と誇大に表現した事例、他社製品の不利な点だけを抜き出して比較した事例などが載っています。MRだけの問題ではない、ということです。

コンプラ的に危ないメディカル部門の5つのサイン

ここからは架空の「A社メディカル部」で考えます。次のようなことが起きていたら、注意が必要です。

サイン1:MSLの目標に「訪問件数」と「営業の重点先」が入っている

評価指標が売上に関連していないか。営業が売上を伸ばしたい病院の先生との面談数が評価シートに並んでいるなら、形を変えた販促の指標です。

サイン2:面談先を営業が決めている

「この先生、競合品に切り替えそうなので話してもらえませんか」という依頼が当たり前に来る。MSLが誰と会うかは、本来メディカル部門が独立した基準で決めるものです。

サイン3:「先生から聞かれたことにしておいて」

適応外や未承認の話をするために、医師からの質問があったことにする。求めを作り出すのは線を越えています。

サイン4:資材が審査を通っていない

営業のスライドを少し直して使い、社内審査は後回し。MSLの資料は営業部門の資料と区別し、事前に審査を受けるのが基本です。

サイン5:アドバイザリーボードの人選に営業が口を出す

議題より先に「誰を呼ぶか」が決まり、呼ばれるのは処方の多い先生。アドバイザリーボードは医学的・科学的な意見を聞くための会議で、営業部門から独立して運営するものです。

MRとMSLの同席はOK?

よく聞かれる疑問です。製薬協の考え方では、同席するかどうかは「目的を明確にしたうえで決める」とされています。一律に禁止ではありませんが、目的があいまいなまま当たり前のように同席している組織は、独立性の運用が緩い可能性があります。

私がMSLとして働いていた環境では、面談にMRは同席しないのが基本で、面談後に共有してよい範囲で内容を伝えていました。一方で、もっと以前には、MRにアポイントの取得や講演会のチケット手配をしてもらっていた時代もあります。ルールが整ってきた今は、「何のための面談か」を先に決めることが出発点です。

転職の面接で見分ける質問

入社前に、ある程度は見分けられます。逆質問で次のように聞いてみてください。

  • MSLの評価指標は何ですか(件数や売上が出てこないか)
  • 医師と面談する先は、どの部門がどう決めていますか
  • MRとの同行は、どんなときに、誰が判断しますか
  • MSLが使う資材の審査は、どんな流れですか
  • アドバイザリーボードは、どの部門が企画していますか

答えが具体的に返ってくる会社は、線をきちんと引いている会社だと思います。言葉を濁されたら、もう一段深く聞いてみてください。

よくある質問

販売情報提供活動ガイドラインはMSLにも適用されますか?

MSLは販売促進を目的としない立場ですが、無関係ではありません。製薬協の基本的考え方でも、未承認薬や適応外の情報の提供は、販売情報提供活動ガイドライン、社内基準または手順書に従って公正に行うとされています。具体的な運用は、所属企業の手順書で確認してください。

違反事例はどこで確認できますか?

厚生労働省の「医療用医薬品の販売情報提供活動調査事業」の報告書で、毎年、違反が疑われた事例が公表されています。医療関係団体のサイトでも案内されています。

コンプライアンスが緩い会社にいると、転職に影響しますか?

面接で「前の職場でどんな活動をしていたか」を聞かれたとき、胸を張って説明できない経験は、経験として使いにくくなります。医師からの信頼も静かに失われます。

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【出典】日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方」(2019年4月1日) https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/basis/rfcmr00000002zsh-att/msl-jp_20190401.pdf

【出典】厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(2018年9月25日) https://www.mhlw.go.jp/content/000359881.pdf

【出典】厚生労働省「令和6年度 医療用医薬品の販売情報提供活動調査事業」(日本病院薬剤師会の案内) https://www.jshp.or.jp/content/2025/0725-1.html

執筆:のぶ。公開資料と実務経験をもとにした解説です。架空の「A社」の描写は説明のための例で、特定の企業を指すものではありません。個別の判断は所属企業の手順書と専門家に確認してください。

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